Mercedes-Benz 300SL coupe  
 
後ろ 300SL クーペ

Data
名称 メルセデス ベンツ 300SL クーペ
生産年 1954年-1957年 生産台数 1400台
全長 4520mm 全幅 1790mm
全高 1300mm ホイールベース 2400mm
エンジン
形式 水冷直列6気筒SOHC 排気量 2996cc
最大出力 240ps/1600rpm 最大トルク 25.9kg-m/4200rpm
最高速度 217-265km/h トランスミッション 4段M/T
その他
燃費 6.4km/l 中古価格の相場 約1000万-1600万円



History
   1954年2月、ニューヨークオートショーの一角に、 銀色ボディーでガルウイングドアを持つその車はあった。 その車の名前はMercedes-Benz 300SL。 メルセデスの作った、伝説的スポーツカーである。
 この車のベースは、1952年のミッレ・ミリアで二位に入り、 ベルングランプリで優勝し、ル・マンで1-2フィニッシュしたレーサー、 300SL PROTOTYPEと呼ばれる車だった。 この車には、 「マルチチューブラー・スペースフレーム」と呼ばれる新しいシャシー構造が採用されていた。 このシャシーは無数の細い鋼管を橋桁状に組み合わせることにより、 各メンバーが車体にかかるストレスを吸収する仕組みになっていた。 これによりシャシー本体は非常に軽量で強靭に仕上げられ、 その上に搭載されたボディーも応力を全く受けないために軽量なアルミボディ−が採用された。
 しかし、このシャシー構造には大きなデメリットがあった。 構造上各メンバーの間に一定のスペースが必要となり、 ボディーのサイドシルがかなり高くなってしまうことだった。 結果、普通の形のドアの装着が難しくなり、 その代わり跳ね上げ式のドアが採用された。 このドアを開いた状態で前から見ると、 ちょうどカモメ(Gull)が翼を広げたように見えたことから、 この車は「ガルウイング(Gullwing)」と呼ばれるようになった。
 そのロードバージョンの300SLの計画は、 マックス・ホフマンという人物によって進められた。 ホフマンは300SLのアピールの高さから、 もし、メルセデスがこれを生産すれば、 相当数のオーダーが取れると確信した。 ロードバージョンの300SLは、あきらかにPROTOTYPEをベースとしていたが、 細部では大きく性能アップされていた。 エンジンは最終プロトタイプに採用されていたフェール・インジェクション装備の水冷直列6気筒SOHC2996ccであったが、 最高出力は171ps/5200rpmから2400ps/6100rpmへ、 ボディーも若干大きく、丸みを帯びたものにされたが、 重量は870kgから1300kgに大幅に増えてしまった。 しかし215psを発揮するM198エンジンによって、 最高速度は240km/hから260km/へとパワーアップされ、 それはボンネットを低くするために左へ50度寝かされていた。 また、そのエンジンには量産車としては初めてフューエル・インジェクション (ボッシュ製)を備えていた。 ホフマンの予感は正しかった。 1954年から生産が開始され、 1957年に、シャーシの改良により普通のドアがついたロードスターにとって変わらるまで 3年間で1400台が作られた。
 また、これとは別の300SLも作られた。 1955年のレーシング仕様の300SL、300SLRだ。 ベンツW196GPカーによる直列8気筒エンジンを搭載したこの車は、 世界ではじめてフラップ・ブレーキ (ついたてのような物で空気の抵抗によって減速する)を採用しており、 1956年のミッレ・ミリアレースでスターリング・モスの手により最高時速157km/hという驚異的なスピードで優勝してみせた。 しかし、その後のレースで高速走行中に他車との接触によって空中に大きく舞い上がり、 観客席に落下して100人近い死者を出してしまう。 もちろん、300SLR自体の欠陥だったわけではなかったが、 このレース以来メルセデスは長い間レーシング活動を中止してしまった。
 しかしさらにより大きなアピールになったのは、有名人が300SLを好んで所有したことだ。 若かりし頃のヨルダンのフセイン国王も一台を所有し、 先程登場したレーシングドライバーのスターリング・モスや、 英国のコメディアンのトニー・ハンコック、 さらにはプロレスラーの力道山や俳優の石原裕次郎までもが所有していた。
 300SLは卓越したスポーツの頂点に、メルセデスの地位を再び築いたのであった。
 



インテリア クロムが多用された50年代特有のダッシュボードは未来的なものを感じさせる。 このクルマにかっこよく乗り込むためには、 この広く高いサイドシルをうまく攻略しないといけない。
乗り降りをしやすくするためか、 ステアリング・ホイールはワンタッチで前に倒れるようになっているものもあり、 特に米国向けに多いそれは、 「太った人向けのホイール」として知れ渡っている。

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写真撮影場所:トヨタ自動車博物館
写真撮影年月日:1999年10月9日
参考文献:クウェンティン・ウィルソン著「世界の名車」講談社